伊藤和夫さんと言えば、「英文解釈教室」をはじめとする受験参考書でお世話になった方も多数いらっしゃるでしょう。この本には、伊藤さんが死の直前まで燃やし続けた英語教育にかける熱い思いが、行間から溢れんばかりに伝わってきて、読んでいて心に迫ってくるものを感じます。参考書では気付かなかったのですが、どこか英文の香りがする、ロジカルで、それでいて流麗な美しい日本語は、「こんな日本語が書けたらいいなあ」と思わされる格調高いものでした。
驚いたのは、序文を書かれた日付が、死の二週間前だったことです。自ら記されていますが、ガンで手術を受けられ、やがて転移が発見され、ご自身に残された日々が長くないことを自覚しつつ書かれたのです。それを知って、これだけの情熱をもった方だからこそ、今でも受験生の多くに愛されているバイブル的な名著を何冊も生み出されたのだと改めて感じました。
過去最長級の記事、しかも珍しく真面目な内容になりますが、夏休みということでご容赦ください。太字部が伊藤さんの著書からの引用部分です。
申し上げたいことの第一は「速く読む」ということについてであります。試験問題の分量、特に一題あたりの英文の分量が著しく長くなってきているのはここ十年くらいの傾向ですが、それを反映して、「英語の文章を全部読む前に試験の時間が終わってしまう。英文を速く読めるようになるにはどうしたらいいか」というのが、「単語を覚えるにはどうしたらよいか」という問いと並んで、学生から受けることのもっとも多い質問であります。この問題での私の基本姿勢は、時間をかけてゆっくり読めば理解できる文章を速く読む訓練をすることは可能だが、時間をかけてゆっくり読んでも理解できない文章の意味が、速く読むとわかるということはあり得ない、ということに尽きるかと思います(講演より抜粋)。
言われてみると当たり前のことかもしれませんが、これって意外と気づかないことではないでしょうか。文法とか構文とか、最低限必要なルールを知らないままに、いきなり多読しても、外国に長く住む等、尋常ではない量を読まない限りは、読解力は伸びないのではと私も思います。TOEICでもきっと同じです。いつもパート7が最後まで終わらないのであれば、公式問題集のパート7に出ている英文を、その構造までしっかりと理解できているかをチェックされるとよいと思います(単語の意味ではなく文の構造です)。もし、9割方理解できているのであれば、同レベルの英文の多読・速読によって読解力はUPするでしょうし、そうでなければ、一見遠回りに思えても、分からない文章について、文法書や英文解釈書をあたり、まずはゆっくり読んで理解できるレベルにまで読解力のベースを底上げするべきだと思います。
「読む」という作業は、方向を持った線の中に閉じこめられた想念を線の束縛から解放して立体的なものに復元する作業である。(中略)我々は既に与えられた部分に基づいて、そこから先の思考の流れと言葉の組み立てを予想している。自分の予想が正しいか裏切られるかを、新たに出てくる部分と突き合わせて確認し、その正しさに満足したり、基本の枠組は変わらぬままでそこに付加される情報を受け入れたり、予想が大きく狂うことによって読みの誤りに気づき、前へ戻って読み直しかつ訂正したりすること、それが具体的かつ創造的な読み方である。言語が方向を持った線であるのに対応して、読むこともまた、方向性を持った線状の活動なのである。
こういう文章に出会うと、「うーん、自分は格調高い路線じゃ文章書けないなあ」と自分の適性を思い知らされます(笑) こうやって、普段英文を読む際に無意識で行っていることを、分かりやすい言葉にして示すことが、教える側に求められる資質のひとつなんでしょうね。まあ、TOEICの試験ではそんな高尚なこと言ってられないよ、と読者の皆さんには言われそうですが。
英文を読んでいて、時々自分の読み方に違和感を感じる、先へ進めなくなるのはなぜでしょうか。それは、実は「読む」と言うのは英文を「内容」から考えると同時に「形」からも考えるという二重の作業だからだと思います。ただ英語を読みなれた者にとっては、「形」を考えること、つまり、英文が正しい約束に従っているかどうかを確認することは無意識の世界で行われているために、それが行きづまらないかぎり、意識の表面に浮かんでこないのであります。
ここから一見奇妙な結論が生まれます。英語を読む力があればあるほど、誤解や錯覚の可能性は少ないわけでありますから、英語を「形」から意識的にとらえてみることが少ない、つまり、自分がどういう約束に従って読んでいるのかを意識する機会は少ないことになります。(講演より抜粋)
ちょうど、「FADED DEAD JADED」というブログの最新記事で、私をはじめとするTOEICの高得点者で、毎回毎回飽きずにTOEICを受けているオタク軍団にこういう質問が提示されています。※運営者のFDJさんの日本人離れした英語のライティング力は必見!
What have you learned from TOEIC with regard to English grammar (excluding test strategies and techniques) since you achieved TOEIC 800?
私はたまにブログの記事で、文法について詳しくない、と書いていますが、中学高校大学では、受験勉強や学校の授業を通じて、英文法の勉強はしました。ですが、おそらく、英語の読解力が身に付くにつれて、そうした「形」を意識することが少なくなったのだと思います。伊藤さんの言葉を借りれば、文章を読む際、「形」より「内容」に意識がシフトしているわけです。
TOEICのリーディングの問題を解いている時も、行きづまる時はもちろんありますが、回数は少ないですし、そうした時に、「ん、これは自分の解釈が間違ってるな。あ、よく見たらtheじゃなくてthatだったか。どうりでおかしいと思った」と軌道修正しますし、その時にいちいち文法用語で考えたりしません。なので、上記の質問に対しての答えとしては、文法について学ぶというよりは、点数が上がるにつれて、文法が無意識化されるのだと思います。もちろん、自分にとって内容や構造が難しい文章を読むと、「形」を多く意識することになります。
神崎さんが非常に素晴らしい英語でご自身のブログで上記の質問に答えられているので、こちらの記事も是非ご覧ください。これぐらい英語で書けるようになりたいですよね。
受験生を教えていると、本来はもっと広く多面的な視野に開かれてよいはずの学生の話題がテストの点数とか偏差値に局限されているのを耳にして心が痛むことが多い。しかし、得点と言い偏差値と言っても、英語の試験の場合、問題とされる英文自体が学力を的確に反映しうる構造を持ち、採点が万人の納得しうる基準によって行われるのではければ、結果として出てきた点数だけを、相互に比較軽量することが可能だという理由だけで取り上げても無意味なはずである。
TOEICについて考えると、解答が選択式なので、採点基準は明確ですよね。ですが、英語力を的確に反映しうる構造を持っているか、というと、これには疑問符が付きます。ある一定以上の高得点者の英語力を測定することはできませんし、アウトプット力が測定できないことは明らかです。また、体調や解答技術で得点も左右されます。もちろん、人間ですから、スコアが高いと嬉しいですし、低いとがっかりしますが、それとは別次元の話です。TOEICの限界を自分なりに理解して、スコア至上主義にならずに、自分の英語力UPのために、うまくTOEICを活用すればいいのではと思います。
京大には京大英語、阪大には阪大英語、早稲田には早稲田英語というようなものがあるはずはなく、英語は一つですから、英語の学力を基礎から充実させておけば、どの大学でどんな入試問題が出ても通用するものと信じます。
これは伊藤さんの同僚だった駿台予備校の方の言葉だそうです。京都校を設立した際、現地の高校から寄せられた、「京都大学の入試傾向にどのような対策を持っているか」との問いに対する答えだったとか。英語学習ってきっと、本来こうあるべきですよね。「TOEIC英語」なんてありません。ある日突然ETSの気まぐれでTOEICの出題形式が大きく変わったとしても、スコアが決して左右されない英語力を身につけたいですよね。
うわ。この記事A4で3枚超えてますね。長文失礼しました。
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時間をかけてゆっくり読めば理解できる文章を速く読む訓練をすることは可能だが、時間をかけてゆっくり読んでも理解できない文章の意味が、速く読むとわかるということはあり得ない
上記の言葉から読書スピードアップへのヒントを得た気がします。TEX さんの仰る「9割方理解できている」状態に私はなんとか該当していると思うので、あとは語彙力強化と速読トレーニングだけなのかも、というような気がしてきました。
とは言っても、私はいわゆる「受験英語」にドップリ浸かった訳ではないので、Readability(内容)と共にMechanic(形)を100%把握できるよう、語彙力強化同様に、文法もコツコツやっていかねばならないと、気持ちを新たにさせられました。
いつも刺激になるエントリーをありがとうございます。
読みこなしてこられたのでしょうね。
昨日、一昨日と中村澄子先生のセミナーに
参加したのですが、
私には読む絶対量が不足していると実感しました。
Part5で落としているのは全て語彙問題なのです。
私と同じパターンのTOEIC受験者は多いそうです。
先生が著書でも紹介されている
「ファイナンシャルタイムズ」を頑張って読もうと思います。
それから、セミナーで中村先生が
読むとためになるブログとして
TEXさんのブログのことに何度か触れられました。
「TOEIC満点サラリーマンで検索してください」と
おっしゃっていましたよ(笑)。
もちろん、中村先生のコアなファンの共通点として、
TEXさんのブログの愛読者も多かったです。
え、中村澄子さんですか。ご紹介いただけるほどの内容ではないのですが(汗) そういう方に読まれているかと思うと、下手なこと書けませんね。とはいえ、急に高尚な内容にしようと思っても無理ですが。
パート5で落としている問題がほぼ語彙ということでしたら、公式問題集3冊分の語彙を、L/R問わずにマスターすれば十分ではと思います。そうして覚えた単語の定着と言う意味で、多読はよいでしょうね。TOEICのスコアアップには中村さんお薦めのFTを読むのも効果的でしょう。是非楽しみながら語彙力UPに取り組んでください。
日本語なら、新聞はあっという間に、500ページくらいの本なら寝る前に読めてしまうのですが、英語だともっと時間がかかります。JAPAN TIMESは毎日来るし高いので必死で読んでますが、かなり時間かかります…。せっかくなので、日本語の一面の記事を一つ英語にしながら読み、同じ記事が大抵JTにあるので、後から語彙を確認したりしてます。
JTとの同じニュースのとらえ方の違いがおもしろいです。
新聞は万人向けで読みやすいので、もっとくだけた英語を読むと、分からない日常会話や言い回しがいっぱい出てきます。
とにかく、日本語くらい早く読めるようにしたいです。というか、日本語は多分読んでないんだと思います。ぱっと数行いっぺんに見て理解している感じがします。日本語は、読んでいるととてもリラックスできるのですが、英語はまだまだストレスかかりますしねー。文法が弱いせいか、何度か読まないと頭に入らないこともありますし。文法もちゃんとやっていかないとですね。
中国語を勉強するたびに、私ってなんて英語ができるんだろう…(^^♪と幸せな気分が味わえます。あまりに中国語ができないからなんですけどね…
"super-heavyweight hardcore TOEIC bloggers"
ですからね。
ここは訳さずに、どうぞ宜しくお願いいたします。
ボクはパート7で点数が出なくて、今特に、リーディングセクションで伸び悩んでいますので、「ゆっくり読んで理解できるレベルにまで読解力のベースを底上げする」ように、さっそく公式問題集を使用して、読み込む練習をしてみたいと思います。ありがとうございます。
小生のスコア伸び悩みの原因をご教授いただきました。
これからもよろしくご指導ください。
この記事を読ませて頂いて一筋の光明を見出せた気がしております。
ありがとうございました。

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